それでもあなたと結婚したいです。

再び目尻から落ちる涙を、人差し指ですくうと少しだけ苦しそうに彼女は唸った。


「幸せな新婚生活送ってるんじゃないのかよ………。何で涙なんか………クソッ………。」


女の涙は嫌いだ。

特に普段は泣きそうもない強い女の涙は………。

思い出したくない過去を思い出させ、俺の全ての自信を一瞬にして崩していく。


「ううん………。」


「目が覚めたのか?大丈夫か?!」


うなされたように喘ぎながら目は閉じたままだ。


(夢でも見てるのか?)


額に浮いている汗を拭おうと手を伸ばすと、彼女は弱々しい力で俺の身体に抱きついてきた。


「どうした?」


「…………。」


「おい!」


何か言っているようだか声が小さい上に泣いていて、ちゃんと聞き取れない。

抱き締めて口許に耳を近づける。


「………千春さん……行かないで………私だけだって言って………お願い………お願い………。」


ぎゅうっと胸が締め付けられる。


「………大丈夫だ。俺が守ってやる。」


今まで女達に言ってきたどの言葉より真実に近い言葉。

そっとそのまま優しく抱き締める。

これ以上この女人(ひと)が壊れることがないように。


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