それでもあなたと結婚したいです。
大した事のないように淡々と喋る彼女に腹が立って、つい嫌味な話し方になってしまう。
「君は何で花枝の事を知っている?今、何処にいるんだ?」
「奥様は今、桐島社長の所におります。」
「何であの人の所に!?」
「朝方近くにマンションの下のベンチに座っていたそうです。社長が帰ってきた時に見つけて話し掛けたら、酷く泣いていたそうで、事情を聞こうとしたら、そのまま倒れられて、今は熱があるので社長の家の寝室で休んでおられます。勿論、医師には診て貰いましたのでご心配なく。」
直ぐに立ち上がり、玄関に向かう。
「今はやめた方がいいと思います。」
「君に指図される筋合いはない!」
苛立ちでつい、声を荒げてしまう。
「マンションの下まで来ておいてずっと部屋に戻らなかった奥様の気持ちが分かりませんか?」
「!!?」
「顔を合わせたくないからです。そんなことも分かりませんか?………昨夜、二人に何があったのかは分かりません。よく思い出してください。………それから、一つ、うちの社長から。」
『話がある。』
「だそうです。…それでは私はこれで失礼します。」
踵を返し、颯爽と玄関に向かう彼女を呼び止める。
「待ってくれ。質問がある。」
「何でしょう?」
半身をこちらに向けて彼女が振り返る。
「君は今は桐島社長の秘書なのか?」
「はい。」
「昨日、パーティーで花枝にこの炭酸水を渡したのも君か?」
「はい。つい懐かしくなって出すぎた真似を致しました。」
「そうか、分かった。」
俺はようやく取り返しのつかない過ちに気づいた。