それでもあなたと結婚したいです。

「こんにちはー。」


ドアは開いてあるのに誰も出てこない。

照明も一部しか点いていない状態で所内は静まり返っていた。


「すいませーん!!誰か居ませんかーー?」


少し声を大きくして呼んでみると奥の扉が音を立てて開いた。


「今日は休みなんでー…………あれ?花枝さん?」


明らかにオフの私服姿で黒木先生が出てきた。

白の編み込みセーターにコーデュロイの茶色のパンツ姿でいつもより可愛く見える。


「先生………?」


「お休みの日にどうしたんですか?私がここに居るのを分かって来られたんですか?」


「いいえ!先生、お願いがあるんです!私、千春さんを捜してて………ここには来てないでしょうか?」


「いや、今日は来ていないですけど………連絡つかないんですか?」


「それが…急いでて携帯を忘れてしまって。」


「私から掛けてみましょうか?」


「お願い出来ますか?」


「分かりました。ちょっとお待ちください。」


黒木先生はいつもの優しい笑顔でにっこり笑った。

黒木先生の笑顔はある種の薬だ。

どんなに不安な状況でも、落ち着いた優しい声とあの笑顔を見ると何だか根拠もないのに大丈夫な気になってくる。

人の心も何でも見通しているみたいで、本当に不思議な人。

病み上がりの身体をソファーで休めて待っていると、暫くして黒木先生がカチャカチャとティーセットを持って入ってきた。



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