それでもあなたと結婚したいです。
「ここのホテル素敵ね。初めて来たけど気に入ったわ。」
長いネイルを眺めながら女は話し始めた。
俺は強張った身体を、何とか引きずる様にしてソファーまでたどり着く。
『 過去の受諾と決別 』
黒木先生はそう言っていた。
俺は過去のトラウマに囚われたまま生きている。
未だにこの日登美とゆう女に恐怖を感じ、恐れている。
小学生の俺は子供で何も出来ず、されるがまま恐怖を受け入れるしかなかった。
でも、今の俺はどうだ?
女一人くらい簡単に払い除けられる力もある。
あの頃とは違う筈だ。
「どうしてさっきから何も喋らないの?大人になって無口になったのね。………いいわ、素敵だもの。」
女が俺の直ぐ目の前に立ち、ぐいっと顔を近づけた。
「何か昔を思い出すわね?あの遊びの続きしましょうか?」
真っ赤な女の唇がニッと動いた。
声を出そうとしても声にならない。
頭では分かっているのに、全身に力が入り硬く固まって動かない。
意に反して身体は小さく震え続ける。
「あら?震えてるの?緊張してるのね?大人の女は初めてなの?フフッ………じゃあ又、こうしましょうか?」
女は俺のネクタイを引き抜くと目隠しがわりに縛った。
パニック状態になった俺は、金縛りにあったかの様にヒューヒューと荒い息だけ吐く。
「興奮してるのね?分かるわよ。」
せっかく治療してきたのに平常心は全く何処かに飛んで行ってしまった。
その間にも女は自分のスカーフで俺の両手首を縛った。