それでもあなたと結婚したいです。
シャワーを借りて、どろどろになった気合いの入ったメイクを水に流した。
脱衣場で鏡を見ると、そこにはスッピンの元の何もない自分が立っていた。
黒木さんから借りた服もブカブカで、まるですっかり魔法の解けた灰かぶり。
「少しは落ち着きましたか?」
コトンと目の前にマグカップが置かれて、中には湯気の上がるミルクココアが入っていた。
空腹で冷えきった身体にはありがたいのだろうけど脱力して、力の入らない身体は、すぐそこのマグカップにさえ届かなかった。
「温まりますから、少し飲んでください。」
「………………黒木さんは知ってたんでしょ?千…………、かっ彼の事。それなのに黙っていた。」
今、彼の名前を口にしたら直ぐにでも泣いてしまいそうで口に出せなかった。
昔から色んな女の武器をうまく使ってきたけど、涙を武器にする女は大嫌いだった。
男の前では絶対に泣かないと、勝手に誓っている。
「すいませんでした。大分、あなたを傷つけてしまったようだ。」