檻の中から捧げる君への嘘









私は檻を出ると



見張り番についてくるよう



言われ裏口までの道を



案内してもらった







「30分だ」




男はそれだけ言うと



もとの場所に戻っていった





それを見送った私は



裏口の扉を開け外へと出る



夜に外へ出たのは久しぶりだ




上を見ると



数えきれない星と



強く自らを主張する月の光が



私を照らした
















「苑」




夜風とともに発せられた声は



前に聞いた時よりも



穏やかで落ち着いている







「……………………何の用?」






私の第一声はそれだった



後ろを振り向くと


優しく微笑む彼がいた












「苑に会いに来たんだよ」



そんな恥ずかしい台詞も


彼は簡単に言ってしまう



彼を苦手だと感じるのは


多分 彼のそういうところだと思う







「信じてない…って顔してるね」


「別に」




私の近くにまで来た彼は


苦笑いで私を見つめる






「そこに座ろうよ


…あっ、これ食べる?」



「食べる」






私の答えを待たずに勝手に



地面に座り



持っていたパンを私に差し出す





「焼きたてだからおいしいよ」



彼の言うとおり


手に取ったパンは温かく


パン特有の香りが


煙となってほのかに香る










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