罪人と被害者
わかってない。
彼は、まだなにも。
「裏切られてもいい一一救われたことに、その善意に意味があるんだ」
たとえ自分の利益のための善意でも、自分に向けられたことに意味がある。
嬉しい。
(こんな自分にも)
この人優しい。
(みんな自分を見て見ぬ振りするのに)
生きててよかった。
(善意を嬉しいと思ったから)
『何か』のためでもいい。
それに救われることが大事なんだ。
それをこの子はまだ知らない。
本当に救われたことがないから。
裏切られに裏切られ、救いすらも信用できなくなっているから。
「お前、正真正銘の善意ってのを知らないって言ったよな?」
「え…うん」
一一教えてやりたいと思った。
こいつは昔の自分だ、救われる前の自分。
『廻ってるの。次は私がする番かなって…』
善意はぐるぐると回って、返し返されの定理をいく。
ならば、次は俺の番だ。
「じゃあ正真正銘の善意を見せてやるよ」
返すんだ、善意を。
たとえ裏切られた善意でも、俺は救われたから