罪人と被害者
「僕のこといらなくなったの?」
それなら、そう言って。
おじさんはぼうっと僕を見て、そしてクスクスと小さく笑った。
こんな笑い方するんだ、って見惚れてたら。
「なんだ、俺がお前をいらないって言ったのかと思ったのか」
「だって、帰ってもいいって」
「家にいても暇かと思って言ったんだ。別にいらなくなったわけじゃない」
そう言われて、少しホッとした。
「そ、そっか」
「で?帰るのか?」
「…うーん
いいや、ここにいる」
「わかった」
ふ、と笑って、またカップ麺に意識を戻したおじさん。
ああこの話はもう終わったのか、と油断していた。
「…お前、捨てられたのか?」
やっぱり、触れられないわけないと思ってた。
「…うん、そうだよ」
努めて明るく。
「そうか」
「お父さんが新しいお母さんを迎えてさ、子供ができるんだって。
だから僕邪魔なんだってさ」
追い出されたのではない。
自主的に逃げてきたのだ。
そうしなさいって、遠回しに言われたから。
捨てたとなれば世間体が悪いし、何しろ公共が動いてしまう。
けど、僕自ら消えたのだ。
警察は家出と判断するし、世間体でも悪者は僕だけになる。
「…徐々に学校に行かない日を増やしていって、やがて不登校になった。
周りには荒れてる風に見せて、完璧に家出をしてきたんだ
お金なんか貰えないから、そこらへんのおじさんをひっかけてだましとって一一」
悪いことをして、ここまで来たんだ。
「ね?家なんか帰れないでしょ」
努めて明るく。
勤めて、明るく。