罪人と被害者
(一)
社会はいつでもそうだ、いつも見て見ぬ振り。
教室でのいじめ、近所の虐待。
知っていて、噂になるのに一一手を差し伸べない。
その伸ばした手が脅威に晒されることを人々は恐れて、伸ばそうとしないのだ。
いつだってそう、自分の身が可愛い。
それが人間で、俺もそうだった。
そう、そのはず、だったんだ。
「おじさん、一晩5万でどう?」
「……」
まさか、こんな声をかけられるとは思わなかった。
会社からの帰り、だいたい11時前後。
駅前を歩いていたら。
それも一一
「俺に男色の気はないんだが」
「えぇー?」
男の子、に。
癖っ毛らしいふわふわの黒髪に、やけに白い体。
パーカーにジーンズという色気のない格好に、華奢で凹凸のない体。
誘ってるようには見えない。
年齢的には14、5。
こんな子がこんなことしてるなんて、世も末だ。
「いいじゃぁーん、おじさん新しい扉開いちゃおうよ」
「二つほど開けることになりそうだな、男色と子どもと」
「容赦なっ!僕子どもじゃないし」
「どう見ても子どもだ。
男性じゃなくて男の子」
「男性だし!」
「毛は?」
「ううぐ…」
悔しそうに食い下がった。
悔しそうな顔は余計に子供らしい。
「ちぇっ、もういいよーだ」
ぷいっと踵を返した。
家にでも帰ってろ、と毒づこうとして。
「あ!ねぇおじさん!!」
一コマ目に戻る、と言いたくなる声が聞こえた。