君色ドラマチック
何か飲むかと聞くと、彼は何もいらないと答えた。
私の横にぴたりと寄り添うと、彼は小声で話し出す。
社内でこの距離は少しくすぐったいけど、誰も見てないからいいかな。
「あのさ、俺の新作は納期がまだ少し先だろ。その前に、別のブランドの服のパターンを、慧にお願いできないかな」
「えっ?」
今でも毎日苦戦してるのに?
そう言いたかったけど、ぐっと飲み込んだ。
「頼んでた外部のパタンナーさんが妊娠してて、思いがけなく早産になっちまったんだと。デザイン部の先輩が困っててさ。納期に間に合わなかった、2点だけなんだけど」
「どうして私に?」
「慧なら安心だから。それに、俺のデザインばっかやってて飽きただろ?たまには違うブランドのパターン引くのも、勉強になっていいんじゃないか?」
「飽きてないけど……っと」
結城が突然目の前にデザイン画を出してくるから、コーヒーをこぼしそうになって焦った。
なるほど、結城のデザインとは全く違う、コンサバな服だ。
若いOLさんにあいそうな膝丈スカートに、袖がひらひらしているカットソー。
横からブラが見えないようにするの大変なんだよね、このひらひら袖……。