君色ドラマチック


「慧」


背中を髪の毛と同じくらいそっとなでる声。

幻聴かと思ったけど、反射的に振り返る。


「……結城」


返事をすると、いつの間にそこに来たのか、結城がこそこそと私を手招きする。


「なに?」

「昼メシ、一緒にどう?」


どういう風の吹き回しだろう。

入社以来、そんなこと言ったこと、一度もないのに。


「やめておくよ。もし後輩たちに目撃されたら、何を言われるかわかったものじゃないから」

「じゃあ、外に出よう」

「……なにか、話でもあるの?」


そうたずねると、結城は眉を下げて戸惑ったような顔をした。


「いや、昨日電話くれただろ。お前の方が、俺に話があるんじゃないかと思ったんだけど……」


ああ、そうか。

一応、昨夜のことを気にしてくれていたわけだ。

でも、じゃあどうして深夜でもいいから、昨日電話をくれなかったの。

ラインでもいい、一言『帰ってきたよ』と送ってくれたら、安心できたのに。


「うん……あの、櫻井さんさ。だいぶムカついた。私のこと、色弱でコネ入社の使えないヤツと思ってるみたい」


素直には言えなくて、結城に対するいらだちも、自分に対するいらだちも、全部櫻井さんのせいにした。


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