君色ドラマチック
「お邪魔します」
玄関のドアを開けると、奥から『いらっしゃい』と声がした。
脱いだ靴を並べて上がっていくと、今部屋着に着替えたばかりという感じの結城がいた。
そう、実は私は……結城とつきあっている。いわゆる、恋人というやつ。
手に持っていた服を洗濯カゴに入れると、ソファには座らず、キッチンに向かう。
「お疲れ様。座って待ってて」
そう言うと、冷蔵庫を開ける。
「手伝うよ」
カウンターキッチンの中に入っていくと、私用のエプロンを手渡される。
「ありがとう。じゃあ、サラダを頼む。材料は適当に使って」
もう今までに何度交わしたかわからない会話。
いつもの受け答えをした結城は冷蔵庫から牛肉のかたまりを取り出し、包丁を持つ。
私はメインを作らせてもらえない。
なぜかって、私には肉や魚がちゃんと焼けたかどうか、見た目で判断することができないから。
そう、私は生まれつき色覚に異常がある。
赤い色を感じる錐体が欠けていて、青はかろうじてわかるけれど、あとはピンクなのか黄色なのか、赤なのか緑なのか、さっぱりわからない。
色の濃淡はわかるけれど、色味がわからないのだ。
だから、肉が生の状態の赤色から、火が通ってピンクから茶色っぽくなっていくのもわからない。