君色ドラマチック
「そう。じゃあ、出ましょう」
課長と共に部屋を出ると、早速話を切りだす。
社食や給湯室に行ってしまえば、他の誰に聞かれるかわからないから。
「ここで大丈夫です」
「そう?」
「これを」
私はデスクから隠し持ってきたものを、着ているニットの裾から取りだす。
それは、1週間前からずっとバッグの中に入っていた、辞表だった。
課長が目を丸くし、私を見つめる。
「どうしたの、急に」
「はい。実は、櫻井さんに、彼のブランドの専属パタンナーにならないかと誘われたので」
「櫻井くんが退職するのは知っているけれど、どうしてあなたまで?」
あんなに櫻井さんを嫌っていた私が、どうして引き抜きの話を受ける気になったのか。
理由が全く分からないと言うような顔で、課長は額に手を当て、眉をひそめた。
だって、私が仕事を続けながら結城のそばから離れる方法が、これしか浮かばなかったんだもの。
櫻井さんの引き抜きの話を受ければ、結城の仕事を請けることはなくなる。
それに、櫻井さんの元で頑張ればきっと、パタンナーとして、今までよりも多くのものを得ることができるだろう。
さすがの櫻井さんも、『本当にいいのか?』って、しつこいぐらいに確認してきたけど。