イジワル上司の甘い求愛
「……ダメかな?チャキ」
大きく揺さぶらている私に浦島さんが追い打ちをかける。
「……わかりました。行きます」
ダメなんかじゃない。
ううん、私だって浦島さんと会いたい。話がしたい。
玲美さんっていう婚約者がいるって分かっているのに、自分の気持ちを押さえなきゃいけないことも、諦めなきゃいけないことも頭では分かっているのに。
だけど、玲美さんのあんなキスを目撃してしまったら、私……。
「じゃあ、場所は後でメールするから」
浦島さんは声色一つ変えずに、一言「お疲れ様」それだけを言って電話を切った。
プー、プー、と電話の終了を告げる電子音を数回聞いて、ゆっくりと受話器を戻しながら激しい後悔の波に襲われた。
浦島さんと2人きりで会うわけじゃない、大岩さんもいるんだから、大丈夫。
自分自身に言い訳しながら、私はその日の業務を粛々と進めた。
朝からずっと空回りばかりでうまくいかなかった業務が、電話を境にまるで魔法がかけられたみたいにスムーズに進んだんだった。