イジワル上司の甘い求愛

「有瀬さんが泣く必要なんかない」

浦島さんが静かにそう言って、私は涙が流していることに気が付く。

仕事が出来ないからって泣くなんて、新人でもないのに情けない。
だけど、気が付いたらとめどなく溢れてくる涙を止めることが出来なくなって、自分でもどうしていいものか分からない。


夜のオフィスに二人きり。
久しぶりに会う先輩と後輩。

いくら『犬猿の仲』といえども、男と女。

しかもその後輩が目の前で泣いているっていう状況がきっと浦島さんのなにかを動かしたのかもしれない。

泣いている私の涙を、浦島さんの少しだけひんやりとする指がすくった。

指は冷たいはずなのに、触られた頬は一気に熱を帯びる。


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