イジワル上司の甘い求愛


店を出る頃にはついさっきまで降っていた雨もあがっていた。

少しだけふわふわする心地よい酔いを味わいながら浦島さんの半歩後ろを歩く。

2人の足音がシャッターの閉まった駅前の商店街にやけに響く。


「今日は楽しかったです」

ふと、何気なく口から漏れた言葉に自分自身が驚いた。


感想を伝える言葉も、感謝を伝える言葉もたくさんあるはずなのに。
おいしかったでも、勉強になったでもなく、『楽しかった』って言葉を酔いの廻った頭が選ぶなんて。

だけど、楽しかったのは嘘じゃない。

仕事のアドバイスそこそこに、プロジェクトの熱を帯びた話をしたり、企画部でこの2週間に起こったハプニングを話したり、それから部長の口癖なんてどうでもいい話で盛り上がったり。


うん、一言でいうと『楽しかった』ってことは間違いなんかじゃない。


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