それぞれの恋愛事情


自覚したのはいいものの
目の前で俺が汗水垂らしながら作った昼食を美味しそうに食べる由香に
未だにアタックができないでいる
その理由は……

「あ、その柿ちょうだい!」パクッ


「ああー!!」

俺が箸で掴んでいたデザートの柿を
一瞬にして俺の手ごと自分の方に引き寄せた由香はそのままパクッと
食べてしまった

思わず声が出てしまった俺は
睨むように由香をみると
由香はニコニコしながら
何事もなかったかのような顔で
俺の柿をモグモグ……

「俺の柿返せ!」

そう言いながら悔しくて俺は由香の皿に残った最後の柿を箸で掴んだが

パクッ
「ああー!!」

また由香はそれを食べてしまった

満足そうに柿を飲み込んだ由香は
ニコニコ

いつもそうだ
普通の女だったら間接キスに
あたるこの行為を気にもせずよくやる
自分の気持ちに自覚して、
“倉田さん”から“由香”にかわっても一瞬驚いただけで
またいつもの笑顔になる由香



「なんで俺の柿食うんだよ」

「好きたさだから」

「ーーー!?!?」

「私果物好きなの!」

へへっと笑う由香は
ときどき小悪魔に見える

こいつ俺の気持ち知ってんのか?

ほんとにそう思ってしまう


「他の休憩かぶった人も大変だなー」

俺は仕返ししたくなった

「え?なんで?」

「好きなものこうやって全部由香にとられちゃうからな」

冗談で言ったつもりだった

「私、こうやって間接キスすりの峯岸くんにだけだよ!」

なのに彼女は笑顔を曇らせ
珍しく声を荒らげ
ソファーから勢いよく立ち上がった


え?

何この状況?


彼女は無言のまま
そのまま食べていた皿が乗ったお盆を持ち上げ入口に向かった

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