風変わりなシュガー
「良かったです」
「うん、そうだね」
私は一つ大きく息を吐き出すと、鞄を持って立ち上がった。
「じゃあ、行きますね。バスの時間があるし」
「やっぱり昼過ぎまでいれば?それに、何回も言うけど俺が街まで送るのに」
一緒に立ち上がりながらそういって、市川さんが首を傾げた。でも私はううんと首を振る。
「朝一番の電車とバスで来たんですよ。だから、朝一番の電車とバスで帰ります」
店の前まで出てきた市川さんに、私はふざけて敬礼する。
「お世話になりました!」
市川さんも敬礼してくれる。
「―――――――こちらも、お陰で楽しかったよ」
じゃあ、そういって大きく手を振る。国道沿いの緑深い山の中に、いきなり現れる一軒屋の下に立つ市川さんへ。
いつものジーンズにTシャツで、市川さんはずっと見送ってくれていた。私がカーブを曲がるまで。
無事にきたバスはガランとしていて、一番後ろの席に座りながら、私は不思議な感覚になる。ここへきたあの初夏の日とほぼ同じだった。人のいないバス、都会ではあまり聞こえない虫の声、それから緑の匂いがすごいのも一緒。太陽の熱さも風の涼しさも一緒。小さな鞄一つで一人座る私も一緒。
でも、何かが大きく違っていた。