風変わりなシュガー
それから、あの海で号泣したときの、シュガーの声を思い出して。
いつでも大丈夫って笑うシュガーの強さを目の当たりにした。いつかはシュガーだって、本当に好きな人を見つけるだろう。そうなったときに、私はまだウジウジと悩みの中なんて嫌だ。
そんなこと、真っ平だ。
そういう気持ちが原動力になっていた。
困難な目にあってもあわなくても、私は私でそれ以外の何者でもない。どうなったって、とにかくそれが私なのだって、シュガーが、あの軽い口調で教えてくれたのだ。
『頭ばっか使ってないで』
『メグはもうちょっと、足許に目をむけてみれば?』
『大事なのは足跡じゃないだろ。むしろ・・・』
「足、そのもの」
つい笑ってしまう。風変わりな男、シュガーとのやり取りは、今ではキラリと光って目の前で踊るのだ。
3ヶ月の間だった。
だけどあの山の店や人気のない海辺で過ごした時間が、これからの私を作っていくことがよくわかっている。
山の闇や鳥とか虫や風、波や砂の焼ける自然の音。
それから市川さんの鼻に皺をよせるあの笑顔や、投げてくれた蜂蜜キャンディーや黒糖の甘さ。「人生に乾杯」ってグラスを鳴らしたあの夜のことも。
誰にだって辛い闇がたくさんあって、だけどそれに肩をすくめて進むことが出来る力もあるんだって、教えて貰った気がする。だから今は、私はここで生きていくのだ。ここが家だから。自分で決めた約束を守って、出来るだけ空や緑を見上げることにする。
そして今も――――――――
私の耳の奥では、シュガーの声が聞こえる。