風変わりなシュガー

砂糖の女とシュガーの男



 結局、その夜はひりひりして眠れなかった。

 日焼けってほんと火傷なんだなあ!とじっくり体感した私。朝は随分ぼーっとして市川さんを苦笑させてしまった。

「おーい、メグっち!しっかりしてくれ~」

 お湯が沸いているのにも気がつかなかったらしい。私はハッとして、いそいでやかんの火を止める。

「・・・すみません」

「火事になる、火事に。マジでやめてね、俺がようやく辿り着いた場所なんだから」

 はい、と頷いて反省し、私はそろそろとやかんのお湯を落とした。


 緑溢れる国道沿い、眼下に日本海が広がる場所に、市川さんの“辿り着いた”喫茶店、『ライター』がある。

 主なお客さんはここから車で20分ほどの場所にある、ここ数年埋まらないらしい絶賛分譲中の別荘地からの年配者と、旅行中の人々だ。山の長いトンネルが終わった国道沿いにいきなり現れる大きく区切った土地に、喫茶店『ライター』が建つ。2階建ての卵色した住居兼喫茶店と広々とした砂利の駐車場と個人菜園。それが、市川さんが手に入れたものだった。

 土地は目茶目茶安かったらしい。海は見えるし国道沿いではあるが、一番近い街でも車でかっ飛ばして20分かかる峠のここら辺には、他に民家などはないのだ。長い学生生活中のアルバイトで貯めたお金で土地を買って、あとは京都の知り合いを大勢集めてツテもコネも駆使し、1年かけてこの楽園(市川さん曰く)が出来上がったらしい。


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