風変わりなシュガー


 話に付き合ってくれることにしたらしい。市川さんは、布巾で手を拭きながらカウンターにもたれかかって私を見た。

「・・・え、そりゃ・・・」

 私はふと考える。

 泳ぎに行った、のだ。私だって。そのために水着だって浮き輪だって持っていた。だけど結局泳がなかったのは、砂糖がなかったから。そしてそれは―――――――・・・

「あ、そうそう、テンション低くなったのは、あの人のせいなんだわ!」

「うん?」

 ぽん、と手を叩いてそういう私に、市川さんは首を傾げて見せた。

「砂糖忘れたんですよ、私。それで貰えないかなーと思って人を探して・・・でも海の家もなくて、ほとんど誰もいなかったんです。旅行中の家族連ればかりで。で、唯一見付かった地元の人っぽい人に話しかけたんですけど」

 市川さんが苦笑した。

「ああ、忘れたんだね、メグちゃん。命の砂糖。それで、その人にケンモホロロの扱いを受けた?」

「いえ、失礼な態度ではなかったんですけど・・・何か変で」

 市川さんが更に怪訝な顔をしたので、私は昨日の浜辺での会話を再現してみせた。自分が間違えてシュガーって発言してしまったこと、それからその男の人の、不思議な返事も。

「何だそりゃ。会話になってないような」

「ですよね?で、何が何だかわからないけど、まあとにかく砂糖はないんだってなって、それでテンションがだだ下がり~です。あとはぷかぷかと波に浮かぶだけ~」

 ふむ。そう言ってしばらく考えたあと、ヒョイと眉をあげて市川さんが笑った。

「ま、とにかく、だ」

 後ろの棚をごそごそとあさって、小さいものを指で弾いて私に飛ばす。


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