風変わりなシュガー
「いい加減にしないとその若さで糖尿病だぞ。砂糖を直接舐めるより、これにしときな」
放り投げてくれたのは、檸檬キャンディーだった。
日焼けは酷かった。
ジンジンと肌が痛み、真っ赤になってしまった私がお風呂にちゃんとつかれるようになったのは3日も経ってからだった。毎日アロエパックをし、出来るだけ肌をしめつけない服を着て過ごした。
だけど、次にきた休日に、私はまたあの浜辺へと行ったのだ。
今度はバスに乗ってではなく、自転車で。
恐らく40分くらい必死でこがないと着かないと思うよ、そう市川さんに言われて、私はその覚悟を決めて自転車に跨る。
「まだ止めといた方がいいと思うけどね~。でもまあ、今度はちゃんと海につかってきな。行くならついでにその肌を冷やすんだよ」
にやりと口元を歪めて少しニヒルな笑みを浮かべながら、店の前まで出てきてくれた市川さんが言った。
「あと、帰れないくらい疲れきらないこと。行きは山を下りるけど、帰りは当然上りなんだぞ。チャリで。俺に電話くれても迎えにいきません~」
「押忍!」
私は敬礼をする。
今日の市川さんは、休日ルックだ。つまりまだ、朝の光に照らされて立つ彼は寝起きの姿のままだった。いつもの喫茶店の制服、着古したリーバイスのブルージーンズと白いTシャツにキャップやバンダナ姿でなく、寝巻きにしているらしい甚平と寝癖のついた頭。柔らかい黒髪が軽やかなウェーブを作って市川さんの顔の前に落ちている。とてもリラックスしていて、彼の落ち着きが強調されているようだった。