風変わりなシュガー


 普段はやたらと早起きな市川さんにご飯まで作ってもらっているので、休日は私が朝食を作っている。今日もハムエッグとトースト2枚に大量のサラダというメニューを作って、店のカウンターにセットしてきたのだ。

 だから甚平姿で欠伸をする市川さんは、これから店に戻ってそれを食べるはず。

「コーヒー、それとも紅茶?」

 寝癖を右手で撫で付けながら市川さんがそう聞くから、私はリュックを背負いながら答えた。

「今日は紅茶です!恵のスペシャルブレンド・ティー!」

「お、そりゃ楽しみだ」

 朝食につける飲み物は、市川さんにとって大事らしい。それに気がついてからは、私は作るときに十分注意をするようにしていた。

 人がよくて謎だらけのこの雇い主に、喜んで欲しくて。

「じゃあ行ってきまーす!」

「気をつけてー」

 後ろを振り返って市川さんに手を振りながら、私はチャリにのって出発した。いざ、あの海へ!この酷い日焼けはあそこでしたのだから、あの海で体を冷やさねばならない。

 色々変な理屈をこねくり回してはいたけれど、実際の所、私は興味があったんだろうと思う。

 浜辺で出会った、あの男に。



 風を受けて自転車で走る。人も車もほとんど見かけない、田舎の国道を走って、山を下りていた。

 緑の匂いは濃く、いたるところで虫が鳴いているのが聞こえる。サングラスをしていても太陽はキラキラと眩しくて、それは私をちょっとばかりノスタルジックな気分にさせた。


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