風変わりなシュガー


 田舎などもっていない私に。大都会にすぐ出ることの出来る郊外の町で生まれ育ち、唯一の祖母はもっと都会の京都に住んでいて、こういうところに縁などないのに、何故か懐かしい気持ちに。

 たった数ヶ月前まで就職活動に励んでいたことが嘘みたいだった。

 いつでも可愛くなくてペラペラのリクルートスーツを着て、街中を駆けずり回っていたあの頃が。それから、彼氏にも振られて泣きくれていたあの頃が。泣く元気もなくて呆然としていた最初の頃と、号泣する力がなくてただ涙も鼻水も垂れ流しにしていただけの最後の頃も。

 今では、こんなに遠い。

 タンクトップにショートパンツ、スニーカーとサングラスに帽子にリュックサック。そんな姿で田舎街を自転車で走る私が、すごく不思議だった。

 顔が笑顔になるのが判る。

 ああ、もう私、戻って来てるんだ、って。心と体が復活したのかも、って。

 だって、一人でいる時間なのに、市川さんがいないのに、こんな風に笑えてる。それに気がついた。




 海は、前と同じように空いていた。

 8月に入っていたから、夏休み客でもうちょっと混んでいるかと思っていたけれど、そうでもなかった。やっぱりここは大きなホテルなどはないから、散らばる民宿のプライベートビーチなんだろうな、そう考えながら、私は痛くなった腰を捻ってまわす。

 結局55分かかってしまった。

 案外遠くてビックリ。バスだともうちょっと早かったと思う。それに勿論、バスだったらこんなに疲れてない。


< 19 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop