風変わりなシュガー
しばらく目を伏せてしまうけれど、ハッとして起き上がる。いかんいかん、これでままた甲羅干しの再現ではないか!!今日もまた背中を真っ黒にするわけにはいかないのだ。穏やか~に焼きたい。
そこで私はようやく思い出した。
何がって、あの男のことだ。
先日ここで会った、唯一の地元の男の人。
斜め後ろに遠く見える浮き輪貸し場を振り返ってみたけれど、夏の空気にぼんやりと浮かぶだけで彼がいるのか判らなかった。
でも確か・・・自動販売機はあったよね。
私はリュックをひっつかむと、ポタポタと全身から水をたらしながら歩き出した。水分補給のついでに・・・・彼がいるかを確かめに。
今日もさほど混んでいない海水浴場を見渡しながら歩いていく。
大きさも色も様々な浮き輪が竹にぶら下げられている売り場の小屋へ近づいて、ヒョイと覗いてみた。だけど、彼どころか誰の姿も見えなかった。ただ松林から蝉の合唱が聞こえるだけ。
「・・・」
何だ、いないのか。私は何だか残念な気持ちを抱えて自動販売機に向かって歩き出す。
だって、ここにきて、市川さん以外の若い男性に初めて出会ったのだ。旅行中の家族連れやツーリングの団体さんとは違う、地元の人。
多分私は回復しつつあって、新しい出会いに飢えていたのかも。でもそれってどうなの、別にここには男を求めてきたわけじゃあないのにね――――――――・・・
自分に苦笑しつつ小銭を取り出そうとリュックのファスナーを開けていたら、小声と音が耳に飛び込んできた。
うん?
私は中途半端な体勢のままで、音の出所を探して自動販売機の裏を覗き込んだ。