風変わりなシュガー
ああ、光だ、温かい光がここにあるって。それから風の微かな音と、虫の声とか。静かだけど空気はべったりとしておらず、さらさらと優しい音が流れてくる感じ。それはテレビやケータイやラジオから流れてくる音は何かが徹底的に違った。
ただそこに存在していて主張しない、そんな優しい音なのだ。
今晩も、ランプのあかりが優しく揺れる風通しのよいデッキの上で、椅子に両足を上げて座っていて、ビールを飲んでいた。その心地よさに目を閉じていたら、市川さんが聞いたのだ。
今日は海、どうだった?って。
で、話をしたわけだ。今日の一日を。ちょっと話しにくかったけれど、ちゃんと男女のイチャイチャ場面まで言葉を繋げた。その時、どういう顔をしていいか判らなかった私は、ひたすら険しい顔だったと思う。
市川さんは多分、その私を面白そうに見ていたはずだ。
「そいつは女性とイチャイチャしていて、だけど彼女がどこかに行ったあとはメグっちにモーションかけたってこと?おお~・・・元気だな。若いんだろうな~」
「それってまるでおじいさんの言い方ですよ、市川さん」
私は苦笑して言葉を返す。
あなたもまだ十分に若いじゃないですか、って。すると市川さんは、ヒョイと肩をすくめた後であはははと笑った。
「俺は、まあ、世捨て人みたいなもんだから」
って。
私はまた闇の中へと目を戻す。
キラキラの海で。
あの暑い昼下がりの浜辺で。
私は眉間に皺を寄せて、彼に聞いたのだった。
『シュガー?それって本当の名前じゃないですよね?』