風変わりなシュガー


 例えば友達と街へ出てオールナイトで遊ぶとか、自棄酒を飲むとか。凹んだ時の色んな対処方法が、それこそ人の数だけあるのだろうって思う。それは私でも判っていた。

 そして、一番いい方法としては、どっぷり悲しみに浸ったあとはきっぱりと前をむいて、ただ歩き出すってことなのだって。前向きが服きて歩いているような状態。それを、世間の人は歓迎するし、賞賛もする。なんなら応援までしてくれるのだ。過去は過去だって。

 そうして、平凡な毎日を再び手に入れる。

 決まった時間に決まった支度をして決まった場所へと仕事をしにでかけていく。

 いいなと思う人と出会ってうまくいけば結婚し、運がよかったら妊娠出産する。そして、今度は親として人生を歩いていくのだろう。

 そうなるのが平凡だけど確実な幸せだって思って。

 だから前向き、それをキーワードにして、挫折に打ち勝つ必要がある。

 だけど、元々自分を崖っぷちまで追い詰めて物事をやり遂げる癖のある私は、既にそんな気力も体力も精神力も1ミリだって残っていなかった。切り立った崖に指一本でぶら下がっているような状態を1年以上も続けていて、もう崖の上にはどうやったって上れないと判ったから、そこからいきなり華麗でワイルドなダイブが海に出来るかって言われたら無理でしょ。当然みっともなく落ちていく、そうなると思うの。腕も足もバタバタさせて、絶叫をあげながら。もうすぐに海の冷たくて硬い表面にぶつかって死んでしまう――――――――――

 とにかく、心情的にはそんな状況だった。

 だから、採った案はこれ。

 ドン底の自分を救う為、冷たくて硬い海へ落ちつつある自分を救う為に、とにかく、私は逃げ出した。




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