風変わりなシュガー
彼がいないだけでえらく風景が違って見える。私はしばらくぼうっとしてしまったあとで、頭を振ってから動き出す。トイレ・・・はいないみたい。まさかお風呂じゃないだろうし、じゃあ外?
畑かな?そう思って廊下の窓から顔を覗かせると、畑ではなかったけれど、確かにそこに市川さんの大きな背中を発見した。彼が手に入れた敷地内の一番奥だと思う。トラックやバイクが適当に置いてあるその隅っこに向かって、市川さんは微動だにせずに立っていた。
あそこに何があるんだろう。あの人は、何を見ているんだろうか。
私は窓に近づいて目を凝らす。だけど今まで何か変わったものを敷地内で見かけたことなどなかったし、あの場所はただの駐車場の端っこの土地というだけだったはずだ。一体市川さんはあそこで何をしているんだろう。
しばらく動かずにじっとしたままで、市川さんはどんどん昇っていく朝日を全身に浴びていた。
それからようやくぐるりと首を回して、家に向き直る。
慌てて窓際から身を離して、私は洗面所へと飛んで行った。丁度今起きました~ってことにしておきたかったのだ。冗談めかして、今何してたんですか?とは聞けないと思ったのだった。その時の温度、感覚で。茶化せないような何かの真剣な空気を感じていた。
私が洗面所に飛び込んで蛇口をひねり、顔を一度洗ったところで市川さんが店の中に入ってきた。
音を聞いてこっちに来たらしい。暖簾が広がって、ヒョイを顔を覗かせたのが鏡にうつって見えた。
「メグっち、早いな。おはよー」
「お、はよーございますー・・・」