風変わりなシュガー
あ、ダメだ、ぎこちなくなってしまった。市川さんはちょっと変な顔をしたけれど、何も言わずにキッチンへと消える。私はタオルに顔を埋めながら、決心した。
さっき、市川さんが立っていたあの場所に、私も行こうって。何があるのか見てみよう。でないと気になって仕方がない。
洗面を終えて店へと行くと、いつものようにカウンターの中にいた市川さんが、顔を上げる。その瞳は既に笑っていて、この夏中の朝の彼の姿だった。
「どうした、眠れなかったのか?」
本日一杯目のドリップをしながら、市川さんが声をかけてくる。私は適当にまとめた髪の上にバンダナを巻きながら曖昧にへらっと笑った。
「いえ逆です。すんごく良く眠れたから、朝はすっきり目がさめました」
「お、それは良かったなー」
「はい。掃除、私がしますよ。それに畑の収穫はします?」
朝それを市川さんがしているのは知っていた。いつもの私の起床時間は1時間ほど遅いので、今朝は代わろうと思ったのだ。だけど市川さんは簡単に首を横に振る。
「畑は自分でいくよ。店内掃除はもう殆ど終わってるし・・・あ、なら朝飯前にデッキの手入れを頼む」
「はーい」
まだお腹は空いていない。だから私は椅子から滑り降りて、爽やかな風吹くウッドデッキへと出て行った。
キラキラと太陽が落ちてくる。鳥のさえずりと、木立の間から吹き渡る風。労働環境としてはここは間違いなく世界一だわ、そう思いながら濡れ布巾とモップ、箒を用意した。