風変わりなシュガー


 デッキには丸い小さなテーブルセットが3組ある。テーブルの上を拭いてから風で飛んできた草や埃を箒ではいて取り、ぬれていないモップで乾拭きした。

 振り返ると店の中では市川さんが朝食の支度を始めているのが見える。カウンターの中で下をむいて、淡々と料理を作っている。

 ・・・チャンス、かも。

 私はデッキの端っこを掃除するふりをして慎重に身を屈め、そのままの姿勢でルームシューズを脱いでサンダルに足を突っ込み、こっそりと庭へと降りた。

 ダッシュ。庭をぐるりとまわって家兼店の裏手に回る。出来るだけ早く走っていって、さっき市川さんが立っていた場所へと向かった。

 だけど・・・・何もないのだ。

 ここよね?市川さんが立っていたのって、ここだったよね?そう何度が確認してしまったほど、そこはただの草原だった。大きな石が一つと小さな石が一つ、それから野草、雑草、使われていないタイヤが二つ、古い柵の切れっ端。

「・・・うーん?」

 普通の、ただの、敷地内の隅っこスペースだ。整えられていない場所。目に付く奇妙なものは何もないし、そのまま視線を上げれば山へと入ってしまう。急な斜面には苔や雑木が目の前まで迫り、ここを上ろうとは思わないはずの場所。

 ・・・何見てたんだろう。地面にも別に何もないし。

 暫く考えてしまったけど、ハッとして同じようにデッキへと走って戻る。彼が何をしていたかを確認していたなんて、市川さんにはバレたくなかったのだ。


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