風変わりなシュガー
言葉が、空から落ちてきた。
まったくそんな風に、私は口から言葉を出していた。
シュガーどこですか、って。
目の前の男は口を少し開けたままで、浮き輪に空気を入れるのをやめてじいっと私を見ていた。
それから不思議そうな顔をして、小さな声で言う。
「・・・ここにいるけど?」
って。
「え?」
いる?
今度は私が怪訝な顔をして、男の言葉を繰り返す。
会話としては成り立っているけれど、全く意味が通じてない、そんなことがこの世の中では多々ある。今回のそれもその一つ。そこまで考えて、ようやく私は気がついた。そしてため息をついて言いなおす。
「ああ、ごめんなさい。あの、砂糖です。コーヒーとか紅茶にいれる、砂糖」
もうすぐ7月が終わる、そんな時期の田舎の海辺だった。
立ち並ぶ寂れた民宿のお客さんである家族連れがチラホラと見える、そんな静かな海水浴場。猫の額ほどの小さな砂浜で、海の家なんて立派なものもなくて、貸しシャワーとゴザが2畳分ほど敷いてある休憩小屋、それから浮き輪の空気入れサービス、そんなものしか地元の店もない静かな浜辺だった。
その浮き輪の空気入れサービスにいる男性、彼くらいにしか、聞ける人がいなかったのだ。現在私が必要としている砂糖を、持っているかについて。