風変わりなシュガー


 市川さんが、カウンターに身を乗り出して言う。

「へぇ、そうなんだ。今日はお休みですか?」

「昼前に漁から戻ってきてそのあとでここへ」

「今はさほど多忙じゃない時期?」

「そうですね、今日もあまり良くなかったです。まだセンターでやることもあるけど、今日はそれも少ないからちょっと休憩ってなって」

 友達と市川さんが話し、私とシュガーは聞いていた。いや、正しくは、シュガー男は食べていた。

 驚きを露にしてしまったことはもう仕方がない。だから私は恐る恐る会話に参加した。

「だって、あのー、確か浮き輪に空気いれてましたよね?」

 漁師さんってのは、船で漁をしている人のことでしょ、浮き輪に空気いれている海の家の兄ちゃんじゃなくて。それにほぼ金髪といえるほどに焼けた髪や着ているものなどから、私の漁師に対するイメージでは全然ないのだ。ぜーんぜん。地元の年くったヤンキーかと思っていたくらい。まあ漁師の知り合いなんて今までいなかったのだから、何が一般的なのかと聞かれると詰まってしまうけれど。

 言いたいことは判ったらしい。チキンサンドを口いっぱいに入れながら、シュガーがもぐもぐと何かを言った。

「あれはバイトって言ってるんだよ。休日の手伝い」

 隣の友達が翻訳してくれる。

 休日のバイト?私は納得して、頷いた。地元の人なんだから、親戚とか実家の手伝いなのかも。そうか、そういうことは有り得るよねえ普通に、って思ったのだ。謎の男から、一気に現実味溢れる若者に変身した感じだった。


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