風変わりなシュガー


 シュガーが言った通り、夕方から夜の入口にかけては素敵な光景が見られるのだ。

 入り江みたいになっているこの浜辺から、水平線に落ちていく太陽が見える。力を失いながらも光はあくまでも眩しくて、たまに長く薄い雲を引き連れていたりする。その完全なるオレンジ色の世界は、呼吸を忘れさせる力を持っていた。

 これだけ広大な景色を、私は今までみたことがないかもしれない。

 ここにきてそう思った。

 夏場の暑くて不快なリクルートスーツでの活動、眩暈や頭痛が頻発するあの日々と、失ってしまった大好きな男の子の優しい笑顔も。寒くて一面のブルーに支配される冬も、笑いの消えた自分の部屋の中も。

 街に居た頃の私は、空なんて眺めなかった。

 目の前のことや人、それから過ぎていくその場限りのものに夢中になっていて、緑や風やお日様の光なんて、全く気にしていなかった。

 なんて勿体無かったのだろうって、今は思う。

 私の青白かった肌はこの夏ですっかりと焼け、髪の色も焼けて茶色になってしまっている。鼻の頭は赤くなり、足には筋肉がついて細くしまってきた。それはシュガーやその友達の姿にちょっと似ていて、これが海辺で暮らすってことなんだなと今更ながら理解した。

 シュガー達のあの髪は、特に脱色しているわけじゃあないんだ、って。

 浜辺はぐるりと防波堤が取り囲んでいて漁船場や倉庫や作業場にも近く、防波堤に座っていても漁船はいくつか見えたから、じいっと目を凝らして見てみたけれど判らなかった。シュガーやあの友達がどれに乗っているのか。


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