風変わりなシュガー
寄せる波に大きな浮き輪を浮かべて、私はその上に体を乗せて力を抜いている。
透明度の高いこの海水浴場は空いていて、波に一人で揺られていると自分しかいないのかと錯覚しそうになる。たまに耳に飛び込んでくる家族連れの子供の笑い声に、ハッとして驚くのだった。ああ、そうか、ここはプライベートビーチなんかじゃないんだって。私は一人だけれど、他の人は皆だれかと一緒にいて楽しい夏のひと時を過ごしている。
大きな帽子とサングラスで日光を遮断してはいるけれど、それでも視界が白く染まるような真夏の昼間だった。
海にきて大して泳ぎもせずにこんな風に甲羅干しをしていたら、どれだけ強力な日焼け止めを塗っていても肌は真っ赤に焼けてちりちりと痛みだす。それがわかっているのにそのままだった。
海辺の田舎町に行く事が決まってから久しぶりに箪笥の奥から引っ張り出した水着はビキニ。つまりほとんど肌を覆っていない。
・・・ああ、こりゃあ火傷のレベルだわ。私は一人でそう思って、だけどやっぱり姿勢をかえずにプカプカと浮いていた。
砂糖、持ってくればよかったな。スティックシュガーを一本鞄に忍ばせる、それだけでよかったのに。そう心の中で一人ごちる。日本中に置かれた自動販売機で、今では山の上でも住宅街でも飲み物が買える時代だ。それと同じように砂糖や塩だってどこででも手に入る。そう思っていたし、海の家くらいあるだろうと考えていたから持ってこなかった。なのにまさかの飲食店ゼロ。
口に入る海の水はしょっぱくて、私を物悲しくさせる。
天国みたいな景色の中、気楽に浮き輪の上で寝そべっているだけなのに、塩味を感じて悲しくなるなんて馬鹿げてる。そうは思っても、心の底から深いブルーが湧き上がるようだった。