風変わりなシュガー
今までの人間関係って、本当にスムーズだったんだなあ!と心の奥底から思う、それがこのシュガーと呼ばれている男と出会った感想だった。
友達も、親も、それからバイト先や就活先の人間関係も、それから去って行ったあの彼も。
好きだから話したいの。私は一緒にいたいの。色んなことをあなたと見たいの。それで、もうちょっと笑っていたいの。だから諦めたくないの。そんな風に言葉に出して、感情を相手に伝えたことが何回あっただろうか。
もしかしたら、今までが諦めすぎていたのかも、って。就活だってあれで終わりにしたのは私だ。それに彼も。あの人の言うことをきいて、ただ黙って見送ってしまっていた。何も言わなかった。自分の心の中のことは、何一つ。
彼の心の中のことだって考えたことはなかったかもしれない。私はいつでも表面だけを見ていたかもしれない。彼の心の中は、一体どんな言葉が渦巻いていたのだろうか。
そう考えてしまったのだ。
目の前の男が、あっけらかんと笑うから。
シュガーが、お前って変わってるって言うから。
私はものすごく常識的で、つまらないくらいに普通の人間だって思ってた。それでいいって思ってた。普通が素晴らしい。それでそこそこ良い人生を生きていけるって。
だけど、違うのかも。
もしかしたら「普通」って――――――――――楽しくないのかも。
「7時過ぎだな。もう帰らないと、山道は明りもほとんどないだろう。マジでべたって真っ暗になるよな、夜の山は」
何故か偉そうに腰に両手をあてて、シュガーが私に言う。
私は頷いて、お茶と鞄を持って堤防の上を歩き出す。