風変わりなシュガー
その時の私はまだウダウダと沈んでいたので、市川さんの言葉を頭の中でぐるぐるとかき回していただけだった。
市川さんはしばらくその反応のない私を見ていたみたいだけれど、よし!といきなりハッキリと声を出して立ち上がる。
「え?」
驚いた私が顔を上げると、ちょっと悪そうな笑顔をして市川さんが言った。
「メグっち、二人だけど、酒盛りしようか!」
「え、ええ?」
「よく考えたらいつも夜は一緒に飲むけど、ご飯の延長上って感じだっただろ。ついでみたいな。そうじゃなくて、飲むって決めてがんがん飲もうかってこと」
「あのー」
「よし、そうしよう!」
いいと返事もしていないのに、市川さんはパンと手を叩いて椅子から飛び降りた。
・・・げ、元気だ。いきなり。さっきまで放心状態で天井あたりを見詰めていた大人の人はどこへ消えた?
驚いていたけれど、市川さんが張り切って酒盛りの準備をし始めたので私も慌てて動き出す。店のお酒使っていいのか?とか色々オロオロしたけれど、市川さんは気にしていないようだった。
つまみにってクラッカーにクリームチーズを乗せて大皿に並べ、どこから出したのか特大のポテトチップスまで出してきた。私は初めて目にした、パーティーサイズってやつだ。
「い、市川さん!晩ご飯食べたあとですよ!?もしかして足りなかったですか?」
今日は休日だから私が晩ご飯を作る。店に戻って来て最初にその仕事は終わらせ、お風呂に入る前の市川さんは確かに食べていたはずだった。
ん?と首をかしげながら市川さんは棚からジンを取り出した。
「別腹」
・・・さよですか。