風変わりなシュガー
小さなショットグラスを二つ並べて市川さんが注ぐ。透明なその液体は蝋燭の明りにユラユラ揺れて、私は一瞬見惚れてしまう。
「ほら、メグっち。飲もうぜ、たまにはいいだろう」
「あ、えーと・・・はい」
雇い主がそういうのだから、こちらは異存などあるはずがない。市川さんも私も酒の許容範囲はさほど違わないはずだし、明日が仕事だってことは勿論わかっている。だから無茶な飲み方はしないだろう。
覚悟を決めて、私はショットグラスを手にした。
ちょっと企んだような笑顔のままで、市川さんがグラスをあげる。乾杯しよう、初めての本格的な酒盛りに、って言いながら。
「人生に」
「・・・人生に」
グラスはカチンと冷たい音を立てた。
ほどほどに飲むのだろう、私はそう思っていた。勝手にね、そうだろうって。だって明日はお店もあるし。
だけど、市川さんの「決めて飲もう」というのは、本気の飲みモードだったらしい。
夜の闇が深くなって市川さんの店を取り囲む、虫の声も聞こえなくなってきていた深夜1時。最初に市川さんが取り出したジンの瓶は空っぽになっていて、何と二つ目の瓶が開いていた。
ショットグラスでドンドン飲む。最初はお腹の中からぐわっと熱がこみ上げるような感覚があったジンのアルコールにもよく判らなくなってしまっていて、途中からは何が何だかよくわからないけど楽しくて二人でゲラゲラ笑っていたのだった。