風変わりなシュガー


 市川さんはちょっと困ったような微笑で言う。

「彼氏が逃亡したって、それは仕方ないだろうな。よっぽど大物じゃないと無理だよ。二十歳やそこらで自分と別の人間の重みまで背負うのは」

「あうあう~」

「俺の今の年齢とかならともかく、22歳でしょ、彼氏?無理だわ~重いわ~」

「あうううう~」

「いいじゃない、人生にはそういうことだって必要だろうよ」

 あまりにさらりと言われたので、ちょっとムッとした。だって私の中では世界が崩壊するかってレベルの一大事だったのだから。

 それで私はショットグラスをカウンターに打ちつけるように置いて、市川さんに食って掛かる。

「そうなんですかっ!?そんなの私には必要だったなんて思えないけど、じゃあ市川さんはそんな経験あったんですか!?」

 市川さんはあっさり頷いた。

「そりゃあ、あるよ。もうそりゃ色々―――――――」

 ひゅっと急に言葉を切って、市川さんはちょっとぼけっと空中を見詰める。私はぐでんぐでんに酔っ払っていたので、一人でぶつぶつ言いながらポテトチップスに手を伸ばしていた。

 すると一度頭を手でかき回してから、あーあ、酔ったなあ~!って大声で言いながら、市川さんが赤くなった頬をカウンターテーブルにひっつけた。

 その時、いきなりこう言ったのだ。

「俺さ、実は子供がいたんだよね」

 って。


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