風変わりなシュガー
「あの子にはそれしかなかったんだよ。そんな方法でしか、感謝を表せなかった。他に方法を知らなかったし、その頃には俺を信用していて、不安を殺すためにも頼りにしたかったんだろう。父親や兄みたいに。俺はゲイだって知っていたけれど、自分のやり方で居場所を見つけたがったんだな。今から考えるとね」
とにかく、そう言って市川さんはぐるりと首を回した。
「彼女とそういうことになった。自分を騙しているような状態で2ヶ月半くらい一緒に住んでいた。だけど俺には恋人がいたし、余りにも不安定な立場だった。こりゃあやっぱりまずいなって思ったんだ。だからその子は自分の部屋にいさせて、俺が部屋を出た。2,3日頭を冷やそうと思って。外に放り出すことは出来なかったし、どうすればいいのかも判らなかった」
市川さんは一度言葉を切る。私はぼんやりと考えた。その頃の市川さんは、多分私と同じくらいかちょっと年上くらいだったはず。どうすればいいのか判らなかった、という言葉が頭の中をぐるぐると回転していた。
「それでしばらく・・・1ヶ月くらい、友達や知り合いの家を転々として・・・ある日、彼女とバッタリあったんだ」
また、あらって言いそうになった。だけどぐっと口を噤む。市川さんの目はその京都時代へと戻ってしまっているようだったから。話し相手が私であることなど、もしかしたら忘れているのかもしれない。ジンの瓶をぐっと顔に押し付けていたので、頬が痛みを感じていた。
囁くような声だった。アルコールで赤らんだ顔をランプの光に向けて、市川さんは小さな声で話す。