風変わりなシュガー
「普通はさ、色々あったって、砂糖は食わねーんじゃないか?アル中とかヤク中ならわかるけど、砂糖ってのは聞いたことがねーな」
そりゃそうだろうね、私は心の中でひとりごちる。まだ砂糖じゃなかったのに甘いものを大量に食べるってだけで「シュガーホリック」と私を呼んでからかった元彼を思い出した。
だって、あの時に手許にあったのが砂糖だったのだから。
あれはただの偶然のことで、砂糖などそのままで食べたことのなかった私は、やっぱりむせたものだった。だけど次の瞬間、体が震えるくらいの甘さに、一瞬で固まっていた全身が柔らかくなったのが判ったのだ。
しかも涙がひっこんだ。
落ち込んでいても泣きたくないと頑張っていた私には、その効果が有難かった。
だから―――――――・・・
シュガーは海を見ながらビールを飲んで、待っているようだった。
今日暇だって言ったのは嘘じゃないらしい。私は暑さで垂れだした汗をハンドタオルでふいて、ビールを飲み干す。
「興味があるの?」
「うん」
シュガーが頷いて、それで?と仕草で示す。だから話し出した。何故か、言いたくなった。
この人が何ていうかを聞きたくなったのかもしれない。
「初めはね、普通のことだったの。疲れた日の夜にココアを飲むって位の。一般的な女の人が欲しがる甘さのレベル。それが段々甘さに慣れていって、食後のお菓子、電車の前の缶コーヒー、朝のアイスクリームって増えていって」
相槌はなかった。だけどちらりと横を見ると、シュガーと目が合った。だから私はまた海の方をむいて話し出す。