風変わりなシュガー


「甘ければ甘いほど私は喜んだの。甘いものに慰められていたんだろうと思う。麻薬みたいなものが出るっていうでしょ、甘いものを食べるとさ。脳内的には立派な依存症だけど、心は落ち着きを取り戻すもの、って思っていたような・・・。それで、大学の最後、1年ちょっと頑張ったけど結局就職できなかったの、私。いくつも企業を受けたけど全部落ちちゃって。それで最後の企業から不採用通知が届いた夜に、手元にあった36個いりのチョコレートを一箱全部食べた。10分くらいで、ガツガツと」

 あれは、おばあちゃんが送ってくれた神戸のチョコレート会社の有名なアソートだったな、と思い出した。でもほとんど味わってなかった気がする。

「それで・・・付き合っていた人に振られたときには、足りなくて、もう、チョコレートでは。台所に走っていって砂糖壷にスプーンを突っ込んで、口に入れてたの。口の中がじゃりじゃりして、でもすぐに溶けて甘さで一杯になる。そしたら、泣かずに済んだのよ。凄く疲れてしまってどうしようもなくなるような号泣をせずに済んだ。だから、そのままどんどん口に入れたの。砂糖をそのまま――――――――――」

「意味わかんねーな」

 シュガーの声が聞こえた。

 私は中途半端に口を開いたままで、隣の男を振り返る。

 8月最後の太陽に照らされながら、眩しそうに目を細めたシュガーが、ビールを飲み干して言った。

「泣けばいいだろ、泣けば」

 凄くあっさりとした言い方だった。心底、当然と思っているような。


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