風変わりなシュガー


「えっ・・・ちょっと・・・!?」

 目の前で突如消えた大きな背中を探して、私は海を見詰める。・・・どこにいる?

 すると結構な距離がある沖合いで、シュガーの頭が飛び出した。

「うお~!冷て~!!」

「・・・何してんの!?」

 ヤツはひゃっほう~などと叫びながら、背泳ぎをして、今度はこちらへ向かってくる。私は呆気に取られて呆然としていたけれど、遅まきながら心の中で呪いをかけた。

 ―――――――クラゲに刺されてしまえ!

「お前も泳ぐか~?泳げるんだろ?実践してみせろよ~」

 近くまで来て立ち泳ぎをしながら、シュガーがケラケラと笑う。私は既に全身びしょ濡れだったけれど、泳ぐなんてご免だと首を振った。

 彼はまた潜って消える。透明度の高い海ではあるけれど、潜ってしまうとシュガーがどこにいるのかはよく見えなかった。海の中でくるくると回ったり、底の砂をすくったりしているらしい。

 塩水が前髪を伝って目に入る。それがしみてとても痛い。ペロリと唇を舐めると、ツーンとする辛さに眉を顰めた。

 痛いし、塩辛い。

 痛い・・・。


 私は一人で波打ち際に突っ立って、目を瞬かせた。涙が出てきた。それは眼球を刺激する海水を洗い流すために必要だから、体が勝手にやること。それはわかっていた。目を綺麗にして、それで・・・。

「ふっ・・・」

 声が漏れた。自分の声だと判るのに少しかかった。

 今や両目からはぼとぼとと涙が零れだし、そんな必要ないんじゃないの、と思うくらいの勢いで零れ落ちる。

「ううっ・・・うー」

 声が出るから、手で口元を押さえた。


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