風変わりなシュガー
ここにいる間は、そのことについて考えなかった。
ここを楽しもうって思ったから。
シュガーに出会ってからは特に、もう先のことは出来るだけ考えないでおこうって思ってたから。今の目の前のことだけを見よう。今を大切にしようって。
でも現実はやってくるのだ。
足音がなくても、時がきたら確実に。
市川さんは首を傾げた。
「何も考えてないの?」
「はい。―――――――ここにいる間は、考えるのをやめようって思ってて」
そうか、市川さんはそう言って頷いた。
それから日があたるウッドデッキの方をしばらく無言でじっと見て、ゆっくりと振り返りながら言った。
「来週で終わり、そう考えてるよ。来週の金曜日」
きゅうっと心臓が痛んだ気がした。
だけど私は頷いた、笑顔で。
「はい、わかりました」
そう言って。
洗面を済ませてから、カレンダーで確認する。来週の金曜日・・・9月12日だ。カレンダーに丸を書き込むかで暫く悩んだ。だけどやめておこう。このカレンダーはそもそも市川さんのだし。
気合を入れて店へと入る。市川さんが用意してくれた朝食は今日も美味しそうで、朝日の中でホカホカと湯気を立てていた。パンケーキとサラダ、ヨーグルト。それから淹れたてのコーヒー。
「市川さん」
自分のお皿をもってカウンターの中からまわってきた市川さんに私は言う。
「うん?」