風変わりなシュガー
「さてと」
私は立ち上がって、市川さんが貸してくれていた衝立をまとめて壁際へ寄せる。それから最後の掃除機を階段の踊り場、つまり私の一時的な寝床だったところへかけて、頷いた。
ソファーベッドにかけてくれていたシーツは洗濯して、もう庭に干してある。
荷物はまとめたし窓も開けて換気もした。
「これでオッケー」
手荷物は少なかった。
最初、自分の家を出るときにはまだ私の頭の中は悲しみで一杯の砂嵐状態で、鞄に適当に放り込んできた衣服はほとんど役に立たず、こちらへ来てから通販で買ったものばかりだった。その少ない夏服やタオル類も、近所の別荘からこの店へモーニングを食べに来る年配のご夫婦が、たまに遊びにくる孫娘のために使うというのであげたのだ。
たまたまそんな会話を市川さんとしていて、奥さんの方が声をかけてきたから。
もって帰るには邪魔だったし、ここでのことは別世界みたいに思っていた私には丁度良かった。
あの街へ持って帰りたくなかったのだ。
だってここでの私は、ちゃんと笑顔で毎日を過ごしていたのだから。
誰かがここで使ってくれるなら、そのほうがいいって。
チャーリーと名づけたロードバイク風自転車は、市川さんに寄付することにした。彼の運動不足を前から気にしていたのでほぼ押し付けたといっていい。
「これで市川さんも体が引き締まりますよ!」
朝日の下でそう言ってチャーリーをなでたら、市川さんがブーイングをしていた。