風変わりなシュガー
「メグちゃんは俺の体が垂れてるっていいたいの?」
「そんなこと一言も言ってませんよ~。だけど市川さん、運動不足でしょ?」
「うぬぬ」
「絶対運動不足ですよね。町へ降りるのだって車だし」
「ぐぬぬ」
「これ使って街へ行ってください。たまの休日にはね」
そう、詐欺にあった人の救済ビジネスの合間にも。そう言って私が笑うと、市川さんは春風のような優しい微笑をした。この人は笑う前に、一瞬だけ鼻に皺を寄せる。私はそれを見るのが好きだった。
「前に一度店にきた、ライダーのこと、覚えてるかな」
「シュガー達が初めてきたあの日の人ですか?市川さんをサトって呼んだ?」
私がすぐに返すと市川さんは驚いた顔をして、ひゅうと口笛を吹く。
「よく覚えてるなー。そうそう、あの人。彼が、京都にいる時に付き合っていた人なんだよ。・・・死んでしまったあの子を自分の部屋で世話している時の」
ああ、そうなんだ。
私は何て言ったらいいのか判らずに、黙り込む。
「・・・俺に突然振られた感じになってたんだ。こっちも気にしてたけど、あっちもやっぱり気にしてたらしい。そんで、話も色々聞いたって」
「亡くなった彼女のことですか?」
市川さんが頷いた。
「昔の仲間から聞いたらしい。俺がここで店をやってるのも。それでツーリング途中に立ち寄ってくれたんだ。恨みとか後悔はないって言いたかったらしい。俺が幸せそうに見えるって言ってたよ」
まだ暑い太陽の下、そういった市川さんはニコニコと穏やかに笑っていた。
確かにそれは、幸せそうな人の笑顔に見えた。