恋愛音痴のススメ
水橋さんは、わたしや千秋と同期入社で、わたしや千秋とは部署は違うけれど、我が社の花形部署である、営業部でも、同期入社の同僚たちの間でも、特別目立つ存在だった。頭脳明晰、営業業績トップ。水橋さんを名指しで指名する会社もあるほどだ、と、噂で聞いたことがある。その反対にわたしは。部署は経理部。友人でお昼休みや就業後など、何かと一緒に過ごす千秋は高身長で派手な顔つきの美人だけれど、わたしは身長が高いわけでも、特別顔が美人ってわけでもない。どちらかといえば地味な見た目だという自覚もある。仕事は確かに好きだけれど、あくまで経理担当で、何か華やかな経歴があるというわけでもない。入社して五年。前の恋人と別れてからは三年半。わたしはその間、恋愛という恋愛をしなかった。わたしと前の恋人の事情をどこからか聞きつけて告白してくる人は何人か居たけれど、でも、それも裏で「河合美咲は都合のいい女にぴったりだ」なんて噂されていたのだって知っている。・・・わたしは正直、男の人が怖いのである。目立つ見た目でも、目立つ業績があるわけでもないけれど、男性遍歴だけは悪目立ちするわたしだ。きっと水橋さんだって、わたしの噂のひとつやふたつ、耳にしたことはあるのだと思った。
(あんなに目立って、かっこいい人が、わたしなんかになんの裏もなく告白なんてすると思う?)
水橋さんは悪人じゃない。そう思う反面、どうしても疑いが自分の心に浮かんできてしまって、素直に喜べないどころか、身がまえをしてしまう。
(本当は千秋に言われたとおり、ちゃんと話を聞くべきなんだ)
でも、昨日、自分から逃げ出しておいて話しかけるのは、なんだかバツが悪い。それに、
(もし、何かの罰ゲームだとしたら?もし、わたしが一人でオフィスに残っていたから、からかっただけだとしたら?)
駄目だ、怖い。悪い考えが次々と頭の中に浮かんでは消えていく。
(水橋さんのことを良く知っているわけでもないのに・・・)
疑いばかりが思い浮かぶ自分が情けなくなる。
「あっ、やっと捕まえた!」
就業後、オフィスでぐるぐると考えていると、頭上から、爽やかな声が響く。ふ、と頭上に視線を向けると・・・
「みっ・・・!」
「あ、河野さん、待って!昨日みたいに逃げるのはなし!」
声の主は、わたしがずっとぐるぐると悩んでいた、張本人の水橋さんだった。
「あっ、あのっ・・・」
「待って、河野さん!今、河野さん、謝ろうとしてるよね?」
核心を突かれてうっ、と黙る。
「謝らないといけないのは、俺のほうなんだ。昨日は正直焦りすぎた。ごめん」
と、言うと、水橋さんはぽつぽつと、語り始めた。
「実はずっと、河野さんのことが気になってた。・・・でも、河野さん、いつも橋本と一緒にいるだろ?・・・昨日は一人で居るところを見かけて、つい焦って告白した。河野さんの、恋愛のことは、知ってるよ。正直、男が信じられないって気持ちも分かる。」
それなのに、昨日は焦って、君を困らせてしまったね、ごめん。と、水橋さんはまた、謝った。
「そんなっ・・・わたしこそ・・・話も聞かずに・・・逃げて・・・っ」
(あんなに目立って、かっこいい人が、わたしなんかになんの裏もなく告白なんてすると思う?)
水橋さんは悪人じゃない。そう思う反面、どうしても疑いが自分の心に浮かんできてしまって、素直に喜べないどころか、身がまえをしてしまう。
(本当は千秋に言われたとおり、ちゃんと話を聞くべきなんだ)
でも、昨日、自分から逃げ出しておいて話しかけるのは、なんだかバツが悪い。それに、
(もし、何かの罰ゲームだとしたら?もし、わたしが一人でオフィスに残っていたから、からかっただけだとしたら?)
駄目だ、怖い。悪い考えが次々と頭の中に浮かんでは消えていく。
(水橋さんのことを良く知っているわけでもないのに・・・)
疑いばかりが思い浮かぶ自分が情けなくなる。
「あっ、やっと捕まえた!」
就業後、オフィスでぐるぐると考えていると、頭上から、爽やかな声が響く。ふ、と頭上に視線を向けると・・・
「みっ・・・!」
「あ、河野さん、待って!昨日みたいに逃げるのはなし!」
声の主は、わたしがずっとぐるぐると悩んでいた、張本人の水橋さんだった。
「あっ、あのっ・・・」
「待って、河野さん!今、河野さん、謝ろうとしてるよね?」
核心を突かれてうっ、と黙る。
「謝らないといけないのは、俺のほうなんだ。昨日は正直焦りすぎた。ごめん」
と、言うと、水橋さんはぽつぽつと、語り始めた。
「実はずっと、河野さんのことが気になってた。・・・でも、河野さん、いつも橋本と一緒にいるだろ?・・・昨日は一人で居るところを見かけて、つい焦って告白した。河野さんの、恋愛のことは、知ってるよ。正直、男が信じられないって気持ちも分かる。」
それなのに、昨日は焦って、君を困らせてしまったね、ごめん。と、水橋さんはまた、謝った。
「そんなっ・・・わたしこそ・・・話も聞かずに・・・逃げて・・・っ」