虹色のラブレター
* 2 *
7月の終わり頃、僕は貴久から「彼女の名前を教えてもらった」と聞かされた。
その2、3日後には「誘ってみたけど玉砕」ということも聞かされていた――……。
*
その日は、貴久が公休で僕は一人で喫茶店に来ていた。
一人でも二人でも僕の座る場所は決まっていた。
「いらっしゃい……今日は?一人?」
お冷を片手に彼女が訊いてきた。
『はい……あいつ公休なんで』
「千鶴も休みだよ」
『そっか』
僕はそっけなく答えた。
「あなたは気にならないの?」
『……あの子のことは貴久が気に入ってるんですよ?』
「そうじゃなくて……」
だから、と彼女は続けた。
「あなたのことを聞いてるの」
『……僕は別に』
彼女はクスッと笑みをこぼした。
「どうするの?」
僕は一度チラッと彼女と目を合わせ、ため息を一つついた。
『どうするもこうするもないじゃん。貴久が上手くいくことを願うだけだよ』
すると、彼女は「あはは」と声を出して笑った。
「私が聞いてるのは注文のことよ?」
僕の動きは一瞬止まった。
彼女の方をもう一度見ようとしたが、思うように動いてくれないその身体が僕の邪魔をした。
『アイスコーヒー……アメリカンで』
僕は出来るだけ冷静にそう答えた。