虹色のラブレター
* 8 *

あの日以来、喫茶店で千鶴の姿を見ることがなかった。

それは、いつも通り貴久と一緒に昼休憩を喫茶店で過ごしている時、彼の口からさり気無く聞かされた。


「天野さん、バイト辞めたらしいな……」


『え?』


貴久は僕の方をチラッと見て、飲みかけたコーヒーを元に戻した。


「お前……知らなかったの?」


知らなかった。

もしかしたら……という予感はあった。

かと言って誰かに聞くとかいうことも出来なかった。


それは千鶴との約束だから。

僕と千鶴との時間は……"二人だけの秘密"なのだから。


僕と千鶴はまるっきり他人のはずだったから……。


『あ、うん、そう……そうなんだ』


僕は視線を広げていた雑誌に移した。


「それだけ?」


貴久は不満そうに言った。


『それだけだよ……何で?』


僕は目線を上げた。


「いや……もっと驚くかと思ったのにさ」


『俺は……ほとんど話したこともなかったし』


「そっか、俺はショックだけどな」


彼らしくない元気のない声だった。


『連絡先は?聞いてないの?』


彼は一つ大きな息を吐いた。


「結局、教えてもらってないんだ……バイト辞めたのも美貴さんに聞いたことだし。
だから、てっきりお前は知ってるのかと思って」


『ううん、知らなかった……。じゃもう連絡も取れないのか……』


美貴とはあの日以来、喫茶店以外では会っていなかった。

でも、ここでは普段と変わらず顔も合わせていたし、言葉も交わしていた。

なのに彼女は僕にそのことを黙っていた。

僕も彼女に訪ねたわけではなかったのだが……。



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