虹色のラブレター
* 9 *
千鶴が居なくなってから半年ほどが経ち、年も明けて季節は真冬になった。
あの日以来、千鶴からの連絡は全くなかった。
それでも僕の日常にさほど変化はなく、職場での昼休憩は相変わらずボーリング場の喫茶店だった。
美貴とは連絡を取っていた。
それは、彼女からの一方的なものに近かった。
でも、美貴の口から千鶴の名前が出てくることは一度もなかった。
彼女が千鶴の話に触れなかったのには大きな理由があった。
でも、この時の僕はそんなことには気付くこともなく、ただ、逆に美貴の口から千鶴の名前が出てこないことが慰めとなり、僕の心の穴を埋める理由になっていたことは確かだった。
だけど半年が過ぎても、彼女と僕の微妙な距離はそれ以上近づくことも離れることもなかった。
この頃から僕は"ポケベル"を持ち始めた。
携帯電話がまだ普及していないこの時代では、どこにいても連絡が取れるこの機械は驚くほど便利で、そのブームは一気に広がっていった。
若者のほとんどがポケベルで連絡を取り、そこに表示される数字だけを使った"ゴロ合わせ"で会話をしたりしていた。
*
仕事が終わってから、何週間か振りに美貴と会う約束をした。
その日もやっぱり、彼女から誘ってきたことだった。
彼女の方から誘ってくるのはもう当たり前のようになっていた。
とりあえず僕たちは近くのファミレスに入って、夕食を済ませることにした。
「覚えてる?」
『え?何?』
「約束……」
美貴は手に持ったワインのグラスを一口飲んで元に戻した。
『約束?』
「ほら、あの旅行の時に……」
美貴は僕から目を逸らして、少し言いにくそうな表情を見せた。
『あ……もしかしてドライブコースのこと?』
「そう!!」
彼女の表情は、僕が覚えていたことが嬉しかったのかパッと明るくなった。
そして視線を僕の方に戻した。
『行ってみる?』
「行く!!」
彼女の返事は早かった。
すぐさま立ち上がり、置いてあった伝票を手に持って僕に笑顔を見せた。