虹色のラブレター
ドライブコースは地元の山中にあった。
特にこれといって何かがそこにあるわけではなかったのだが、起伏やカーブの多いその道は、車好きの僕にとっては最高に気持ちのいい場所だった。
僕は彼女を助手席に乗せ、いつもと同じように山の頂上を目指して走り続けた。
エンジンの唸るような音と、カーブでタイヤが滑る音が山中に響いた。
美貴は初めてのことで緊張していたのか、一言も話さず助手席で固まっていた。
終点まで登って行くと、そこには駐車スペースがあり、展望台があった。
少し離れたところにある自動販売機コーナーの明かりが眩しいくらい、辺りは真っ暗だった。
僕は車を駐車スペースに停めた。
低いエンジンのアイドリングの音だけが聞こえた。
『ちょっと怖かった?』
僕がそう訊くと彼女はまだ緊張がほぐれないのか、助手席で固まったままゆっくりと頷いた。
制限速度40km/hの道を、倍以上のスピードで走りぬけてきたのだから、初めての彼女にとっては怖くて当然だった。
『ちょっと寒いけど降りる?ホットでも飲もうよ』
車から降りると外は予想以上に寒かった。
僕たちは自動販売機コーナーまで駆け足で行き、ホットコーヒーだけ買ってすぐに車に戻ってきた。
「寒過ぎ~!!やっぱり山だから?」
美貴はいつもの調子を取り戻したようだった。
『うん、たぶん!!』
缶コーヒーを両手で握って、一瞬で冷え切った手や頬を温めた。
「ここにはよく来るの?」
『たまにね、今日は誰も居ないけど、週末は結構みんな走りに来たりしてるよ』
「あんなにスピード出して?」
『うん、気持ちいいだろ?』
「危ないよ……」
『え?でも……』
「何かあったら……」
そう言って彼女は少し寂しそうな目をして俯いた。
『大丈夫……無茶はしてないから』
それから少し黙ったままだった彼女が顔を上げて言った。